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大嶋大輔氏を迎えて

SACD「響 藤原道山×冨田勲」アレンジャー/大嶋大輔氏を迎えて

まえがき
大嶋大輔氏は2001年〜2004年の間、尚美学園大学芸術情報学部・音楽メディアコースで冨田勲氏から指導を受けた新進気鋭のサウンドクリエーターである。作編曲から音源モジュールを駆使した演奏、録音、立体音場構成を学んでいる。卒業後は自身の率いるソロプロジェクト「apostrophe fish」名義での活動の他、企業広告、ゲーム音楽、劇伴など多岐に渡る活動をされている。トミタ研究室のOBである大嶋大輔氏がこの度、SACD「響 藤原道山×冨田勲」にアレンジで参加されたので、その作品についてお話を伺った。

InterBEE2008
InterBEE2008 MI7 Japan&SynthaxJapanブースでのセミナー(11/21)



野尻 本日はSACD「“響” 藤原道山×冨田勲」にアレンジャーとして参加された大嶋さんを招いて、本作品について色々と伺いたいと思います。大嶋さん、宜しくお願いします。

大嶋 こんにちは、ご紹介に預かりました作編曲家、大嶋です。今日は昨年11月19日に発売したばかりの「“響” 藤原道山×冨田勲」から僕がアレンジを担当した新日本紀行、文五捕物絵図についてご紹介したいと思います。



野尻 最初に大嶋さんのプロフィールを拝見すると“モックアッパー”とありますが、このモックアップとはどういった意味を持っているのですか?

大嶋 簡単に説明しますと、モックアップとは元々は造船用語です。莫大な費用を必要とする造船は、やり直しが許されません。どんな仕上がりになるのか?レイアウトやバランスは?何より安全性は?造船は設計の段階でこれらの要素を確実にシミュレーションする必要があります。モックアップとは「原寸大の模型をつくる」という意味、つまり実務的な組み立ての工程に入るまでに精密な模型を利用して完成をシミュレーションするシステムを指すのです。そしてこの精密な模型を作る職人はモックアッパー(モックアップする人ろいう造語)と呼ばれます。モックアップシステムとは音楽制作のワークフローに文字通りモックアップを導入することを指しています。作曲家やアレンジャーが作った楽譜やMIDIデータをもとに精密な模型、つまり、より完成品に近いものをシミュレーションし、具体的なディレクションに活かす訳です。我々の考えるモックアップの用途は本物の代用だけではありません。作曲からミックス、マスタリングまで全ての音楽制作業務を行いますが、その中にモックアップがあるというのは大変な強みだということはご想像の通りです。「打ち込みでも、生差し替えでもどちらでも対応します」これはまさにトミタスタイルの影響そのものと言えます。モックアップの存在を教えてくださったのは作曲家の栗山和樹先生でした。大学時代、レッスンが終わった放課後に有志が集まり、先生のご好意で映画音楽の研究をやっていました。そこでまさにこの画期的なお話をお聞かせいただいたのが全ての始まりです。野尻さんも参加されていましたね!

野尻 そうでした。栗山和樹先生の映画音楽研究会でそのような話題がありましたね。ハリウッドといった海外の映画音楽制作現場は役割が明確に細分化されていて、日本の制作現場は様々な業務を兼務するケースが多いようです。冨田先生も、音楽表現においては一人で一貫した制作を行うことによって個性が際立つとよく仰っています。さて今回のSACD「響」では、生楽器とシンセサイザーの両方がある作品ですが、冨田先生からのどういったオーダーがありましたか?

大嶋 アルバム全体は昭和初期を思わせる懐かしいものですが、「新日本紀行」と「文五捕物絵図」の2曲をあまり昭和初期の雰囲気にはこだわらずに大嶋君流に編曲してもらえないか?とのご依頼でした。もともと僕はフルートを専攻していたので尺八とイメージが重なる所が多いため、お話を頂いたという経緯ですね。この企画のことをお話いただい時は正直びっくりしました。僕の作風でご期待に添えるか分からなかったので。しかしアルバム全体の雰囲気にアクセントを加えるという意味でも成功だったと思います。今思えばちゃんと先生は最初の時点で見抜いていらっしゃったんですね(笑)。

野尻 アルバムを拝聴した時、「文五捕物絵図」を聴いて、雰囲気がガラリと変わっているのに驚きました。やはり藤原道山さんのアーティスト、音楽性というか、表現力、懐の深さもあるのでしょうね。制作にはどういったツールを活用されましたか?さきほどのモックアップ手法も活用されているようですね。

大嶋 DAWはSteinberg Cubaseです。僕にとっては2004-2005年にかけてSX3時代にデモンストレーターをやらせてもらったDAWですので思い入れも強いです。ミュージックエディットからテンポアジャスト、打ち込みやサラウンドミックス、そして楽譜制作まで全てをCubase内でやりました。



野尻 「新日本紀行」で工夫された点をお聞きしたいと思います。この不朽の名曲をアレンジするのは大変だったのではないでしょうか?

大嶋 新日本紀行は皆さんご存知のNHK同タイトルの旅番組テーマ曲ですね。なんとも切なくなるような数ある冨田メロディーの中でも大変人気の高い曲です。先生からは実に分かりやすいシンプルなオーダーを頂きました。例えば夜汽車がレールの切れ間でゴトゴト揺れる音が曲のモチーフだったり、構成に中間部を足してその中間部は「夢」にしてほしいとか。
ここで、この作品のサウンドデザインを少しご紹介します。サウンドデザインはミックスや作曲、アレンジをする際に音をグラフィカルにとらえてスケッチすることをいいます。実際はもっと雑にメモ程度のものを使うのですが(笑)。  

5.1chピアノハープ
大嶋 円の上側は正面、下側は皆さんの背中といった感じです。それぞれ、L、R、Ls、Rs、C、それと低音成分のSWです。ピアノとハープをそれぞれ次のように配置しています。サラウンドではこういった立体的な配置ができる訳です。ピアノとハープは同じ減衰楽器で、しかも音域も似ているためキャラクターがかぶってしまいがちです。これをステレオサウンドのままふたつのスピーカーに押し込むとお互いのフレーズが干渉してすっきりしません。スピーカーが2つの場合は打開策として両者を左右に振り分けたり、EQする訳ですが、当然ステレオ感や音色は変わってしまいます。サラウンドの場合はステレオ感を維持したまま両者をセパレートする事が可能です。結果広がりのあるスッキリとしたサウンドに包まれる訳です。

僕のサラウンドに対するの最大の期待というのは「広がり」です。モノラルの時代にステレオが出て来て世の中の音がパーッと広がったんだと思うんです。勿論僕らはそのときの事を知らない世代ですが。今、サラウンドが出て来てそれまでのステレオの表現方法ではない別の演出ができるのだと思います。サラウンドを想定する曲の場合、作曲やアレンジの段階でサラウンドを意識する必要が出て来る訳ですね。


野尻 新日本紀行の聴きどころがあればお聞かせ下さい。


大嶋 先程お話しした「夢」と「現実」の部分ですね。道山さんのテクニックも素晴らしいんです。実は新日本紀行の録音は道山さんとは全くお会いする事なく録音が進められました。でも頂いた音源は完璧でした。僕の演出したかった「夢」が見事に表現されていたんです。きっと道山さんにはそういったオケをきいてだけで作曲家やアレンジャーやの意図を読み取る力がある方なんだと思いました。とてもやりやすい素晴らしい演奏家ですね。それともう一つアレンジ、サラウンド構成をするにあたって気を付けた事があります。それはできるだけ「正面」という感覚をなくす事です。主メロである尺八とかドラム、ベースなどがある場合、どうしてもセンタースピーカーある方が前になってしまいがちですが、正面と言う概念を取り払い、部屋のどこにいても楽しめる「囲まれた音楽」がまさにサラウンドの醍醐味だと思うんですね。ストリングスやブラスといったセクションはステレオの4つの面でリスナーを囲んでどちらを向いても楽しめるような演出をしています。


野尻 次に「文五捕物絵図」について伺いたいと思います。冨田先生のオーダーから実際に制作される上で工夫された点をお聞かせ頂けますか?


大嶋 文吾捕物絵図は江戸時代の青年警察隊を描いた40年前のNHKの人気連続ドラマのテーマ曲です。原曲のメロディーはミュートしたギターの音色でした。これを尺八に置き換えるにはマルカート奏法がいいなと最初に思ったんです。この曲はとにかく僕の「好きにアレンジしてください」という事でした。生き生きとした力強いホーンが印象的だったので、そのスピリッツは残しつつドラムとベースで押すアレンジにしました。ただ、皆さんそうだと思いますが、リズムセクションのサラウンドは本当に難しいですね。音をバラまけばいいと言う物でもないし、音場再現ではスペースコンポジションとは言えない。サラウンド特有の演出をどうするかがポイントでした。先程も触れましたが、そもそもサラウンドの利点とは何かといえば、僕の考えでは「広がりの演出ができること」だと思います。リズムセクションの音場構成は音場再現型になりがちなので、この曲の最大の課題となりました。これらをサラウンドならではの演出にする意味でも作曲、アレンジの段階でサラウンドを意識したフレーズづくり、音色の選択、楽器編成を決めておく必要があると思います。僕の場合はですが、曲の構想やアレンジの段階でサウンドデザインを必ずやるように心がけています。この図を書きながらアレンジや作曲をすることで、音の配置、しいてはフレーズに必然性が生まれるんですね。使う楽器の編成にも大きく影響すると思います。リズムセクションをサラウンド化するのは大変難しいですね?しかしこういったいわば設計図をつくっておくことでアイディアが整理されてより理想に近いミックスができるんだと思います。


bassdrumsnarehihat
tomcc&rcbass
「文五捕物絵図」でのリズムセクションのサウンドデザイン


野尻 「文五捕物絵図」の聴きどころがあればお聞かせ下さい。


大嶋 なんといっても道山さんのテクニックです。特にこの曲では見た事もない尺八を吹かれていて、とても短いのでぱっと見、尺八には見えないのですが(笑)それがまるでサンポーニャの様な鋭い音で文五のオケに見事にフィットしているんですよ。僕が仮で入れたフルートもかなりマルカートで吹いていたのですが、ちゃんとこちらのイメージをくんでくださっていて、驚きました。


野尻 エンジニア(録音/ミキシング)の方とのコミュニケーションはどのようにされましたか?


大嶋 今回のセッションはちょっと変わっているんです。道山さんのレコーディングはサウンドインスタジオで、コロムビアの塩澤利安さんが担当されたんですが、尺八のレコーディングは塩澤さんに完全にお任せしているんです。逆にオケの部分は僕が自宅スタジオで一人で全てやっています。 いいかえれば完全に自宅で作り上げた2MIXステレオのオケをサウンドインに持込み、道山さんにモニターしてもらいながら尺八を録音。自宅に尺八を持ち帰ってオケのサラウンドミックスし、6本に書き出したオケに再度サウンドインで尺八を加えるという流れでした。塩澤さんとのやりとりは殆どなく進みました。むしろディレクションはプロデューサーである冨田先生とのメールのやりとりが中心だったと言えます。

サウンドインでのミックス作業



野尻 サラウンドの「ダウンミックス」*についてはどういう解釈を持っていますか?


大嶋 今回はSACDでの発売です。SACDはご存知の通り次世代記録メディアで、サラウンド収録とステレオ収録がハイブリッドでできる事が最大の強みです。もちろんこのアルバムもステレオ、サラウンドのハイブリッドディスクです。今回はステレオ部分にはダウンミックスしたものが収録されていますので通常のCDプレーヤーでもお楽しみいただけます。でもなんと言ってもアレンジはサラウンドの為のアレンジですので是非サラウンドを楽しんでいただきたいです。
* ダウンミックス:5.1chサラウンドの音声を再生できない場合に2chステレオにまとめる機能のこと。



大嶋 僕の考えるサラウンドの魅力は先ほども触れましたが、ステレオでは表現しきれなっかた“音に包まれる気持ちよさ” 一言でいえば「広がりの演出」です。モノラルで味わえなかった事がステレオで可能になり、ステレオで味わえなかった表現がサラウンドで味わえるようになるこれは実に、自然な流れだと思います。


野尻 そうですね。より多くの方にサラウンドを楽しんでもらいたいです。まだまだ“サラウンド”というと特殊なものと思われがちですし、音楽のサラウンドというと更にピンと来ない方が多いと思うのですが、実はモーツアルトの時代からそういった表現はあったと僕は思っています。舞台の左右に楽器を配置し、右側と左側で掛け合いをするといった発想はステレオが常識の今ではありふれた手法かも知れませんが、その当時はモノラルもステレオも無く、ただ単に音響効果を音楽的に表現していただけだと思うんです。それこそがサラウンド音楽の起源ではないかと思うのです。ベルリオーズ以降、交響詩というジャンルが作られてからは、客席に楽器を配置したりもするようになり、より具体的に明確な表現がなされていると思います。冨田先生の作品の多くは立体的な音響効果を作曲の延長として取り入れ、表現をされています。今回のSACD「響」でもそういった手法をされており、それらを「スペース・コンポジション」と称し、ひとつの音楽表現のジャンルとして多くの方に分かりやすく伝えようとされています。今後より多くのスペース・コンポジション作品が出てくることに期待しましょう!本日はありがとうございました。





大嶋 大輔(Office Mock-up Systems) プロフィール

作曲家/アレンジャー/モックアッパー
作編曲、プログラミングを冨田勲、栗山和樹、Hiroyuki Togoの各氏に師事。自身の率いるソロプロジェクト「apostrophe fish」名義での活動の他、企業広告、ゲーム音楽、映画劇伴、アーティストの楽曲アレンジなど商業音楽を中心にプログラミング、サラウンドミックスに至るまで多岐にわたって対応する作編曲家として評価されている。ワイルドミュージックスクール(http://www.wildmusic.jp/)DTM科、サウンドクリエーター科講師。

代表作
作曲:映画「ROUTE 58」監督:倉持健一、apostrophefish「APOSTROPHE FISH」、(他)
編曲:藤原道山×冨田勲「響」、石田燿子「HYPER YOCO MIX 3」、(他)


響
「響 -Kyo- 藤原道山×冨田勲」 コロムビアミュージックエンタテインメント
ALBUM 2008/11/19 Release SACD 2ch, 5.1ch, CD Audio(ハイブリッド盤)







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