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21世紀を代表する町として都市開発が進む上海にはトップクラスの指導体制、指導環境を持つ国立の上海音楽学院があります。アジア芸術科学学会は1927年に建設された歴史を持つ、 上海音楽学院で開催されました。音楽工程コースのChen副教授に学内を案内してもらえましたので、簡単にご紹介したいと思います。


上海音楽学院の音楽工程コース(音楽メディア系)では各学年約10名の学生がおり、マスタークラスには5名程度が在籍。すでにドクタークラスも開設されています。 私が教室に伺った時も学生さんが熱心に創作に打ち込んでいました。どの学生も向上意識が高く、自分がここで何を学び、吸収しようとしているのかが良く分かっている印象を受けました。


学内のあちこちに冨田教授の講演告知ポスターが掲示されています。
屋外に置かれる掲示板は演奏会などが多く告知され、対外的なPRを感じます。
学生向けの情報は、学内の掲示板にありました。


5.1ch サラウンド制作が可能な研究室。
サラウンドモニターはGENELEC 1030A×5、7070A×1、ステレオモニターにはYAMAHA NS10M とGENELEC 1031A、 DAWにはProToolsが導入されています。このスタジオは高学年の学生が使うことが多いとのことです。
HDD で作品を持ち込み、ミックスやマスタリングに使用されているようです。


こちらもProTools による5.1ch サラウンド対応の研究室。サラウンドモニターはGENELEC 8040A×5、7070A×1 で、前面には録音ブースがあります。 この部屋もサラウンドミックスやマスタリングに使用されているようです。ラック周りはレコーダーが多く、臨時で置かれているキーボードは作業中だった学生が持ち込んだようです。 撮影時に作曲コースの学生が作業をしていました。 彼はヴォーカリストでもあり、中国の伝統的な音楽とサラウンドによる新たな表現を融合させるような作品を作っていました。
小さな研究室にもサラウンド環境が導入されています。
NUENDO で制作した5.1chサラウンド作品をiMac に移し、Final Cut などでDVD オーサリングをするといった使い方ができそうです。 音源モジュールにYAMAHA MOTIF、 キーボードにROLAND FANTOM があります。

学部の学生が使用する演習室。PC ベースのシステムではSTEINBERG NUENDO とCUBASE が使用されています。 音源モジュールにYAMAHA MOTIF、キーボードにROLAND FANTOM があります。授業が行われない時間は開放され、学生たちが自由に出入りできるようです。 ちなみに上海音楽学院の施設は23 時まで開いているとの事です。



なお、上海音楽学院の作曲・音楽工程コースには劇伴音楽に将来のビジョンを持っている学生が多く存在しており、 この部屋の撮影時にもCUBASE 内に取り込んだ映像に作曲をしている学生がたくさんいました。数年前までサラウ ンドは音楽のみを制作していましたが、 最近では映像も視野に入れるようになってきているとの事です。ただ、今のと ころ映像も音楽も学生が一人で作ってしまうというマルチメディアの制作スタイルは存在しないようです。


演習室ではProTools が使用されていました。音源モジュールにYAMAHA MOTIF 、キーボードにROLAND FANTOM があります。 上海音楽学院では学年で指導する内容が分かれており、おおまかには1年次に音楽理論、2年次にMIDI コントロール、3年次に生録音、4年次にミックスダウン、マスタリング、 マスターコース1年次からプロツールスをメインとした、サラウンド制作、メディアに向けた演奏会が行われるようです。
音楽工程コースの立ち上げから僅か3年で細かい指導内容が一貫しており、学生たちも学習過程をよく理解しています。 個々が確実にステップアップしているといった印象です。


この部屋にも録音ブースがあり、学生たちは打ち込みも生楽器も同列に扱うことができます。
気軽にこういった設備を使えるのは大変素晴らしく、恵まれています。機材はGENELEC 1030A、DIGI 002Rack などがあります。 ProTools とNUENDO を使い分け、どの部屋に行ってもデータ再生ができるようになっているようです。

今回、私が見学させて頂いたのは主にデジタル音楽を扱うコースの設備で、指導環境は想像以上に進んでいるものでした。 各スタジオは近接しており、いつも誰かがそこで 作業しているため、とても活気がありました。卒業後、優秀な学生は自宅に製作システムを整え、個人事業として活動される方が多いようです。 これはまだ上海に音楽プロダクションといった音楽ビジネスの体制が行き届いていない為だという事です。

上海音楽学院は今、さらに大きく変わろうとしています。大型の音楽ホールの建設が進み、広大な敷地に十分過ぎるほどの設備が建設される予定とのことです。 アジアのトップアーティストを招いた指導体制は、いずれアジアを代表する音楽学院となると思われます。



私が今回のアジア芸術科学学会で一番強く感じたことは、とにかく上海音楽学院の学生たちの創作へのモチベーションが高いことでした。 どの学生もアジア最高の音楽院で学んでいるという自信に満ちています。その自信は、学生たちに柔軟な発想を持たせています。 デジタル楽器と伝統音楽における住み分けが学生たちの意識に全くないことは非常に先進的でありました。サラウンドのような新しい表現への アプローチも先進国より遥かに斬新で意欲的です。

正直なところを言えば、各講演の学生たちのPA ワイアリング、タイムスケジュールといった対応には冷や汗を流す場面が多々ありました。 機材に関しても、乱雑な扱いによって同じスピーカーでも個体の消耗差が激しく、厳密な音響調整は諦めざるを負えませんでした。 「とにかく音が出れば、あとは俺たちの世界だ!」というのが学生たちの雰囲気です。そういった技術面だけを見れば、遥かに日本や欧米の学生たちのレベルのほうが高いとも思います。

中国の音楽ビジネスはまだまだ未熟なところが多くあるようです。故に著作権といったマナーも意識外にあるように思われます。
この事は今回の主旨から外れますので、これ以上は触れませんが、いずれ中国のクリエーター自身も直面する問題となるでしょう。やはり強烈なまでに 印象として残ったのは、学生たちが持つ創作表現へのエネルギーはアジア全体のエネルギーの流動を象徴するかのように深く、 大変に素晴らしかったことです。 音楽表現とは何か。 情報過多、デジタル機器の発展によって、今の音楽家志望にはたくさんの恵まれた環境があります。  しかし、そこでは自分の世界に必要なモノを選択、吸収し、自分の表現に変える能力が必要となってきます。 上海音楽学院にいる未来の作曲家たちは、 理屈ではない部分で、この事を感覚として理解しているのでしょう。 私は、その事を同じアジアの音楽家として誇りに思うと同時に日本の作曲家の一人として大変な脅威にも感じました。 数年、数十年後には、 必ず上海音楽学院から新しい音楽が世界に飛び出していくことと思います。 これからのアジアの発展、音楽メディアが大変楽しみです。

私は尚美学園大学大学院・冨田研究室の研究生として、彼らと同じマスタークラスの学生という立場も持ち合わせています。
彼らのエネルギーに負けないよう、今回の経験を糧に邁進していきたいと思います。

 

上海で出会った才能溢れる皆さん、素敵な時間を本当にありがとうございます。

2006 年7 月2日

野尻修平