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Add on Effectの制作レポート

ご挨拶
こんにちは、トミタ研究室の津田賢吾です。
前回の漢那さんによるサラウンド音楽制作レポート「SONAR」編に続きまして、今回はサラウンド音楽制作レポートの第二弾といたしまして、自身の曲のサラウンド化に試みました。その制作過程の一部を紹介したいと思います。また今回は、サラウンドエフェクトを体験し実際に楽曲の中で試用しました。曲中での効果を、楽曲制作者の立場から考え、この様なツールを使う可能性を探りたいと思います。


打ち込み
打ち込み作業は主にMOTUのDigital Performerを使い行いました。Digital Performerを使用した理由としては、まず一番に使い慣れている点です。MIDIに関する操作が私の制作スタイルに合っていると思い使用しました。音源ですが、生楽器類は主にサンプリング音源をGigaStudioに立ち上げ使っています。その他は、音源モジュールやソフトシンセを複数Digital Performerに立ち上げて作業を行いました。


サラウンドミックス
サラウンドの作業は今回、Steinbergの NUENDOを使って行いました。オーディオ編集に優れ、直感的に作業が出来る印象です。今回の曲ではトラック数がとても膨大になってしまいましたがフォルダートラック等で整理しながら作業することで操作によるストレスもなく快適に作業が行えました。

NUENDOの画面
サラウンドミックスで使用したNUENDO画面 (緑色→木管 黄色→金管 赤色→弦 水色→打楽器 さらにシンセなどのトラックがあります。)




楽曲の紹介と構成
高層ビルが立ち並ぶ駅前の繁華街。師走の街を往き交う人々で街は活気付いています。私が毎日の通勤で歩いていた通りの一角に鐘の付いた時計台があった。 ある日ふと鐘の音が聴こえて来た。今までは街のノイズに覆い隠され気に留める事はなかった。意識を集中させると街の中には360度いろいろな音が溢れていた。 今回、紹介させて頂く曲は「街の情景」という10分程の曲の中間辺り。「街の夕暮れから夜」を描いた部分です。昼と夜ではまた別の顔を持つ街の変化やそこに集う人々の物語をサラウンド音楽で表現したいと思います。
構成は A(16) B(16) A´(16) C(15) です。

●A
弦楽器にチェレスタ、シンセパッドを加えた小編成でしっとりと歌い上げています。一組の恋人に焦点を合わせ音楽も甘く語らっているイメージです。

●B
木管、ホルン、シンセなどが加わり徐々に音に厚みが出てきます。恋人から焦点が外れ徐々に周りの景色や人々が視界に入ってきます。

●A´
街のネオンやイルミネーションで飾られた通りを楽しそうに行き交う人々がより一層街を活気付けます。金管やシンセが加わり騒がしくも幻想的な街の風景を演出しています。
●C
180度音場が回転し、金管が主役をとります。街全体が踊っているようなイメージでこの後に続くクライマックスに向けての場面転換も兼ねています。



それでは、サラウンドミックスをするに辺り特に工夫した部分、聴き所をピックアップして紹介したいと思います。

まず楽器のおおまかな定位です。
定位
○一定の決まりを持って配置させた楽器群     ○定位が移動する楽器の配置
(フィールドローテーションを使いこの定位のまま360度回転させました)


映像に付随していないサラウンド音楽の場合には、前や後ろといった決まりはないというのがトミタ研究室の考え方ですが、今回はオーケストラ楽器を多く使い、また楽器の数が非常に多いため統一性を持たせるために前後を意識した配置にしました。


鐘の音
冒頭は夕刻を告げる鐘の音で始まります。鐘の音源をモノラルソースでセンタースピーカーに配置しました。ボリュームを落とした複製トラックをリアスピーカーL リアスピーカーRに配置し、鐘の音のアタックが重ならないように波形をずらしています。C→LS→RSと順番に聴こえ、ディレイの様な効果になっています。

鐘の波形
*鐘の波形とNUENDOのサラウンドパンナーです。(パンナーは左からC、Ls,Rs)

反射音はハイをカットし若干のコーラスを掛けることで、ビルに跳ね返った反響の効果を演出しています。ここでは鐘の音(モノラルソース)をROOM ER(部屋の反射音をシミュレーションするエフェクト)に設定して試聴もしてみました。印象としては非常にリアルなサラウンド音場が再現できたと思います。ただ今回の曲は“実写”というよりは創造的にミックスを進めたかったためイメージと近かった上記の手法を採用しました。


ストリングス
全体を通して重要な役割を担っているセクションです。Aの部分では“一組の恋人”に焦点が合っているイメージでしたのでソロストリングスを使用し、全く残響を掛けない裸の状態で使いました。打ち込みでは非常に表現が困難な部分です。A→B→A´と少しずつリバーブを深く、また定位を広げワイドにすることでイメージのスケールに合わせています。要所でフロントに配置したストリングスと同時にリアスピーカーから残響を出力して空間を意識させる演出をしました。

弦楽器のトラック
*画面はAの終わりの部分からBに入る辺りまでの弦楽器のトラックです。鮮やかな赤色のトラックがリバーブ成分で最上段の高弦(VnT)から下の低弦(Vc)に向かって徐々にリバーブのセンド量を変えているのがわかります。


ピッコロ、フルート
曲のスパイス的な効果を演出しています。音源には若干のリバーブを掛けて遠近感を出しています。Bの部分ではディレイトラックを作りRsから出力し、L→Rsへ対面上にディレイエコーの様な効果を作りました。

シンセ
街に溢れる音や街の持つ幻想的な魅力をシンセを使い表現しました。Bから登場する“シンセリードA”。 A´から加わる“シンセリードB”とタップ風なシンセのリズムはフィールドローテーションを使うことを意識した音作りになっています。BとA´の部分でLs→Rsに移動する音は波形をずらしてそれぞれに配置しています。

パーカッション
TimpaniやBass Drum(Gr.C)などの重心となる音の定位ですが、これはいろいろと試した結果、安定感を重視して前面に配置しました。更に波形を変えたBass Drumの音をリアスピーカーからも出すことで極端に前面に比重が偏らない様にしました。


サラウンドミックスを終えて

今回は本格的なサラウンド音楽への初めての挑戦でした。実際に取り掛かり始めて多くの問題に悩まされました。ステレオの延長として捉えるのではなくサラウンド独自の発想を持って従来の概念に囚われない柔軟な対応をする事で少しずつ問題の解決に結びつくとともに次回への課題も多く残されました。サラウンドミックスではリバーブの使用にも注意が必要だと感じました。サラウンドリバーブなどの有効なツールもありますが、安易な発想で使ってしまうと全体にぼんやりとしてしまいます。こういった意味で、今回の作業ではサラウンドミキシングの楽しさと怖さの両方を体験したと思います。やはりサラウンドにする事で何を表現したいのかというイメージを明確に持つことが重要だと改めて感じました。これからもサラウンド音楽についてより一層の研究、経験を積み重ねていきたいです。








■サラウンドエフェクトを試用して

今回、使用させて頂いたエフェクトはヤマハのデジタルコンソールで使用するアドオンエフェクトの中のサラウンドポストパッケージです。映画やゲームなどの効果音をサラウンドで制作する現場では大変威力を発揮しそうなツールです。これを使っていてふと思ったのは、今まで映画などのサラウンド音場を作る時、いったいどうしていたんだろう??おそらく大変な時間や労力が費されていたのではないかと思います。


Field Rotation
サラウンド音場を仮想的に回転させるエフェクトです。

Field Rotation*Field Rotationの設定画面

今回、様々なジャンルの曲で試聴しましたが音源によってはとても効果がありました。サラウンドパンナーで音色を移動する時にも感じることですが持続的に音が鳴っていて尚且つ残響の少ない音源ほど効果があるのではないでしょうか。今回は曲調を考えあまり積極的な使い方は出来ませんでしたが曲のアクセントとして180度回転させています。実際に音楽制作の需要を考えてみても曲全体を回転し続けることはほとんどないと考えられるので音楽での使用としては今回のような使い方も選択肢の一つと成り得るのではないかと思います。更に今後、機能の拡張が可能であれば、平面上での反復角度の設定(30度での反復など)が出来るとよいと思います。もう一つ、時間軸において回転の速度の変化をオートメーションで描けると制作の幅が広がると思います。こういった音楽制作上の効率や操作性を考えると是非、VSTプラグイン対応版があると嬉しいですね。


Auto Doppler
「ドップラー効果」をシミュレーションするエフェクトです。中央の紫色の点がリスニングポイントで緑の点が音源の位置です。音源が軌道上を移動するのですが速度の設定が可能で、スライダーの下にジェット機の絵が描かれ遊び心ある設定画面になっています。

Auto Doppler*今回設定したAuto Dopplerの画面

今回のレポート用に冒頭に鳴る鐘の後ろで街の背景音をアナログシンセで作りました。その場面での車の通過音などで主に使用しました。始めは曲中で楽器の音に使用出来ないか考えていたのですが、今回の曲では違和感があり断念しました。シンバルの音にはフィールドローテーションと組み合わせて使っています。他のアイデアとしては、テクノ系の音楽やクラブなどのDJが飛び道具として使用すると、おもしろい効果が期待できると思います。今回は、一般道での車の通過音ですので本来ならば60キロ程度の速度設定です。実際聴いてみて素直にリアルな仕上がりでしたが、個人的にイメージしていた音と比べると物足りなさを感じましたので、100キロと150キロに設定して使いました。 余談ですが「ドップラー効果」といえば救急車のサイレンを思い浮かべる人が多いと思います。私も実際に同じ音を作って試したところ、見事に時速150キロの救急車が目の前を通過していきました(笑)


Room-ER
モノラル音源やリスニングポイントの移動に伴う、部屋の反射音の変化をシミュレーションします。

Room-ER*Room-ERの設定画面

Room-ERですが、デモを聴いた時には、正直印象に残りませんでした。ただ、実際に自分で設定を変更しながら試聴するとわかるのですが「素晴らしい」の一言です。音源の指向性で変わるリアルな音場の変化に感激しました。(是非一度、試して欲しい!)それぞれの設定や組み合わせ方が柔軟なので、使い方次第では幅広く応用ができると思います。今回は冒頭の場面での音場構成でさり気なく使用しました。




あとがき  − サラウンドエフェクトを使い終えて −

今回、サラウンドポストパッケージの中の3つのサラウンドエフェクトを少し違った着眼点ではありますが、試用をさせて頂きました。ROOM ERやAUTO DOPPLERでは、自然な音場変化を体験でき、ヤマハの持つ高い技術力を実感することが出来ました。FIELD ROTATIONは、音源を工夫する事で更におもしろい効果が期待できると思います。楽曲制作者としてはFIELD ROTATIONが最も、創作意欲をかきたてられるアイテムでした。今後も継続的に使用し研究する余地があると思います。話は変わりますが、以前、ゲームの効果音を作った経験がありますが、音響的な指定がとても細かく苦労したのを思い出しました。現在はサラウンドに対応したゲームも多いので、その苦労は計り知れません。主人公の視点がくるくる変わるようなアクションゲームなどは、どうやっているのでしょうか?こういった現場では、この様なアイテムは非常に有効なツールになると思います。また、トミタ研究室としましても今後大いに活用出来るツールの一つだと感じました。
最後になりましたが、今回のレポートを制作するに辺り、ご協力下さいました皆様に感謝いたします。ありがとうございました。

2008年 9月 26日  トミタ研究室 津田 賢吾






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